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よくある心配事を解決
病気の先輩

8月×日(火)

退院の朝

さわやかな朝が明けた。窓を開けるとセミの声。涼やかなそよ風に薄いグリーンのカーテンが揺らめいている。柔らかいグリーンに包まれ、確かに気持ちの良い空間だなあ、と改めて感じる。
今朝の便は、いきまずとも出た。先生が練り歯磨き程度の硬さの便が良い、と言われていたが、ちょうどそのような軟便で痛みも比較的少なくほっとした。そして、人間ドック用の検便も採取。これで全ておしまいである。ただ、排便後はやはり熱っぽいような痛みが続く。入浴してリラックスすれば引くような痛みで、自宅では風呂を多用しようと思う。
尚、ここでは、便を柔らかくするために漢方の乙字湯を勧めている。しばらく利用してみたい。

お別れ

最後の朝食に最後の入浴、そして最後の診察。やることなすこと“最後”がつく。診察では、肛門の傷の経過は順調であったが、アテローマの縫合部分がまだくっついていない。ちょうど張力のかかる部分なので、下のほうがくっつかない。中から肉が盛り上がってくるのを待つことになるかもという。あるいは、別の対策を考えるか。いずれにせよ、1週間ほど様子を見て後のことという。3日後、10日後に来ることになっているため、その時に判断することになるだろう。
診察後、薬をもらい、その全てを荷物にまとめた。10日間の生活が、大きな黒いバッグに納まった。10:00過ぎ、会計のコールがかかる。いよいよお別れである。少しの間の接触ではあったが、別れとは寂しいものだ。
特に同室のNさんには、いろいろとお世話になった。がっしりと握手する。彼の豪快な社会人人生をはじめ、いろいろな話を伺った。実は、奥様も闘病されている。その折の居住まいも印象に残る。そして、Nさんは71歳という高齢でありながら、6時間の大手術に耐え、10日間点滴のみの飲まず食わずで頑張られた。奥さんともども癌を淡々と受け入れるその姿から、私は生きる姿勢について学んだ気がする。それは、死に対する姿勢でもある。
Nさんの姿は、私の中の深いところで発酵し続けていくことだろう。ご夫婦で手を取り合い、前向きに頑張っていかれることと思う。まだ先は長い。悔いなき人生を歩んでほしい。

家路

会計には、昨夕の面々が顔をそろえている。お出迎えも来ている。皆、晴れやかな顔だ。家族には来なくていいと昨日電話した。来てもらってもとんぼ返りになるだけだ。「お大事に」と声を掛け合い、暑い日差しの中、私は車中の人となった。ドアを閉めたとき、元の世界へ戻る人になった。
車の運転は、やはり楽ではない。特に助手席の窓の開け閉めで手を伸ばすのは、アテローマの傷口のために厳禁と感じた。うちに戻っても、当面腹ばい主体で、ぐうたら過ごそうと思う。

帰還

懐かしの駐車場に車を入れる。大きな荷物をトランクから出して担ぎながら、さてこのヒゲ面を見てどういう反応をするだろうなあ、と楽しみである。実は、入院して以来ヒゲをそっていない。
「ただいま!」息子においでというと飛びついてきた。が、顔を近づけると、手で突っ張る。女房も娘も、来るなと逃げる。ワーワーギャーギャーとひとしきり騒がしいヒゲ騒動が続いた。
古びた扇風機が回り、水槽にはめだかが泳いでいる。机の上には暑中見舞い。…相も変らぬ日常がそこにあり、私はそこに帰ってきた。

ありがとうございました

今、一段落して打っている。いろんな方にお世話になったなあ、つくづくとその思いが胸に広がる。看護婦さんのおおらかさと優しさ。仕事への忠実さ。入浴のたびに、いやな顔一つせずアテローマの絆創膏を変えてくれたこと。夜間の見回り。安心して身をゆだねることのできる体制があったと思う。そして、病棟係りさんとの連携。不要になったものはすぐに消えてなくなり、秩序が保たれている。毎日清掃してくれる方がいるため、床にチリ一つ落ちていない。清潔さと衛生が保たれている。…
直接、御礼できなかったが、入院前にお世話になった方々を含めて、全ての方に感謝を申し上げたい。
ありがとうございました。