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Dr.辻仲の大腸肛門病教室
 
第十二回 骨盤臓器脱
女性の骨盤内には子宮や膀胱、直腸などが収まっています。骨盤臓器脱は、それらの臓器の位置が下がって腟の中に落ち込み、外に飛び出す病気です。下がってきた臓器によって「子宮脱」「膀胱瘤(ぼうこうりゅう)「直腸瘤(ちょくちょうりゅう)」などと言い、それらを総称して「骨盤臓器脱」または「性器脱」と呼びます。古代エジプトで使用されたパピルスにも子宮が腟から出てくる状態が描かれていて、婦人科の病気の中では古くから知られていました。その絵の影響から伝統的に子宮脱と表現されていましたので、一般の方でも子宮脱という名前はご存じではないでしょうか。

完全子宮脱 膣脱と膀胱脱 膣脱
■原因は?

・出産。とくに多産の方、お産の時間が長い難産や巨大児出産の方はリスクが高いと言われている。
・肥満
・ぜんそくや慢性の咳
・便秘などで力むこと
・更年期以降、女性ホルモンが減少すると骨盤内の臓器を支えている筋肉や靱帯(骨盤底筋群)がさらに弱くなって、骨盤臓器脱の症状が出てくることが多い。
■症状は?

・骨盤臓器脱の中で最も多いのが膀胱瘤と言われており、初期のうちは排尿に関するトラブルが多い。最初は尿失禁で悩んでいても、膀胱がさらに下がってくると逆に尿が出にくくなることもある。
・産婦人科を受診される場合は、骨盤内の臓器が下がってくるような気持ち悪さを訴えることもある。
・座ると何かずるずる入っていくが、立つと出てくる。
・重症の方では歩けないという訴えもある。
・股の間に何かいつも挟んでいるような違和感。
・長く立っていたり、重い物を持ったり、排便で力んだりしたときに何かが下がってくる。
■日常生活への影響は?

尿失禁の患者さんが多い。外出するのが嫌になったり、温泉などに入れない、スポーツもできない状態になったりする。ひどくなると寝たきりのような生活になるケースや精神的にかなり落ち込んで心身症のようになる場合もある。
■発症率は?

日本ではまだ正確な疫学調査はないが、米国の閉経後から80歳ぐらいまでを対象に内診して確認したデータによると、腟の中にとどまっているレベルも入れて何らかの骨盤臓器脱のある女性は41%と非常に多い。内訳は膀胱瘤が34%、子宮脱が14%、直腸瘤が19%ぐらい。オレゴン州のデータでは、80歳になるまでに約11%の女性が尿失禁または骨盤臓器脱の手術を受ける可能性があるとされている(※1)。米国でもこれだけ高い割合なので、世界に類を見ない高齢化社会に突入している日本でも非常に多いのではないかと思われる。
■治療法は?

骨盤臓器脱は治る可能性が高い病気で、基本は手術での治療となる。昔からいろいろな方法が試みられ、これまでに200以上の手術が考えられてきたが、現在は欧米で20年ほど前から始まった、解剖学的な元の位置に戻すという方法に落ち着いている。
■手術以外の方法は?

子宮が少し下がっているような方には、腟の中にリング状の器具(ペッサリー)を入れる「ペッサリー療法」もある。最近はやわらかいリングもあるが、出し入れする時に痛みがある場合があり、定期的に入れ替えないと感染や出血の原因になる。
■最新の手術法「メッシュ手術」とは?

手術では、下がった臓器を本来の位置に戻し、再び落ちてこないように補強する。従来の手術では補強に骨盤内の組織を使ったが、もともと痛んだ組織なので3〜5割ぐらいは再発するのが問題だった(※2)。新しい手術は補強に伸びないメッシュを使う。メッシュ手術の利点は、何かの機能を失うことなく骨盤底を再建できるという点で、何も切除せず、腟壁を剥離(はくり)してメッシュを入れるだけなので、患者さんの負担が少なく、入院も短期間で済む。また、患者さんの満足度も非常に高いのが特徴。
メッシュ手術はまだ始まって数年なので長期成績は出ていないが、再発率は低く抑えられると期待されている。
■出典

内容は、2006年8月2日 朝日新聞朝刊 広告特集(ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)の記事をまとめたものです。
※1:Am J Obstet Gynecol 186, 2002
※2:Obstet Gynecol 89,1997, Am J Obstet Gynecol 191, 2004
■結論

骨盤臓器脱はQOL(生活の質)疾患なので、生活に支障がある、または症状が気になるようなら悩まずに受診したほうがよいでしょう。症状が軽い場合は腟や肛門を締める骨盤底筋体操の指導をしたり、今は手術をしなくてももっと悪くなったら手術という選択肢もあります。当院でも治療を行なっておりますのでどうぞ相談下さい。
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