痔プロ.com 
Dr.辻仲の大腸肛門病教室
 
第十五回 痔瘻癌について
古くから痔瘻を放置すると癌化することがわかっているので、それが痔瘻根本手術を行うべき根拠となっています。
しかし一般的には、痔瘻癌は大腸癌全体の0.2%〜0.3%であり、全痔瘻の0.1%が痔瘻癌であるとされています。
■痔瘻癌の定義

痔瘻癌は定義として、
@10年以上長く痔瘻が再燃を繰り返す(10年未満の症例も44%あるという報告もあります -大腸癌研究会集計-)
A疼痛を伴う硬結
Bムチン、コロイド物質の排出
C他の部位に原発がなく、瘻孔開口部が肛門管または肛門陰窩に限られる。
以上の条件を満たすことが必要とされています。
■診断
診断としては、進行した複雑な痔瘻で、硬い硬結やムチンの出てくる2次口の症例や高位の痔瘻の瘻管以外にも膿瘍状の硬結を感じたり、何度も繰り返し再発してくる深部の痔瘻は痔瘻癌を疑うことが大切です。時により腰麻を行っても切除生検を行います。
癌細胞が検出されなくても、繰り返し機会をみて生検していくと、ついに痔瘻癌と診断されることも多くあります。
痔瘻癌の範囲を知ることは直腸切断術を行って治す際に重要ですが、この際MRI T2強調で顆粒状の高信号域(micin lake)を検出することが大切です。
■手術について

ムチン貯留の外側を切除線とします。会陰欠損が大きい場合は、大臀筋皮弁あるいは腹直筋皮弁、さらに薄筋皮弁によって会陰形成を行うこととなります。
鼠径リンパ節を触知する例では鼠径リンパ節転移は少なく、5年生存率も40%とされていますが、世の中にはこの疾患の数が少ないので、根拠のある報告はないといえるでしょう。

組織型は粘液癌63%、腺癌24%、扁平上皮癌10%、印環細胞癌3.3%であったとする岩垂の報告があります。時に女性でも痔瘻の経過中に粘液癌となった例があるので、男女を問わず難治性の再発性痔瘻は生検をして病理学的な診断を得るようにすることが大切となります。
■クローン病と痔瘻癌

クローン病は痔瘻を伴うことが多く長年再燃を繰り返すので痔瘻癌も発見され易くなります。
岡本の報告では395例中5例(男性3例、女性2例)のクローン病痔瘻の痔瘻癌があったといいます。
Colitic cancerが2〜3%とすれば395例中5例(1.4%)も妥当とは言えるでしょう。しかし当院での痔瘻癌の頻度が0.2%であり、難治性の複雑痔瘻は全体の10%程度であるので、複雑痔瘻から痔瘻癌になるのはやはり2%前後の確率と考えてよいでしょう。
したがって、クローン病の痔瘻がより痔瘻癌になり易いとはいえませんが、十分にその可能性を考慮に入れておくことも大切です。

また、結腸直腸癌がすでにあり、管腔転移により転移性の痔瘻癌が認められた例もあります。今日では大腸内視鏡検査はルーチンのことですが、以前は転移性痔瘻癌から原発の大腸癌を知りえたという報告もありました。
■結論

痔瘻癌は稀な疾患ですが、日常臨床で決して忘れてはならないものです。
痔瘻は放置せず、できるだけ早く専門医を受診し、治療を受けることが大切です。
TOPへ
辻仲病院柏の葉へ
東葛辻仲病院へ
アルト新橋クリニックへ
バーチャル診察室へ
痔プロ.com