■痔の疑いのある尻
−ぢかもしれない・・・・・。
ある日、そんな予感が私の全身をつらぬいた。最近どうもおかしい。ウンコをした後三分ほど、「ヒーヒー」とうめいてしまう。
私はフラリとよろめき、恐ろしさのあまりそのまま気が遠くなった。
ぢとは、かなり厳しいものらしい。友人・知人・母親などから幾度となくその恐ろしさは伝えられてきた。ある者は「居ても立ってもいられない。もう、体を丸めてうめくだけだ」と語り、またある者は「尻の穴で壇ノ浦の合戦が始まったようだ」と語る。私の尻の穴はまだ壇ノ浦の合戦までは始まっていないが、農民の一揆くらいは行われている気がする。
まずい。このまま放っておいたら、悪化して第一次世界大戦に突入してしまうかもしれない。早くなんとかしなければ・・・・・。
(略)
ところが、ある日の大便の後、肛門の特別演奏はジャズからベートーベンの“運命”に変わった。ジンジンからジャジャジャジャーンになってしまったのである。
私はトイレから出た後、しばらくカエルのように飛び跳ねていた。もう居ても立ってもいられない。風林火山大爆発である。
私の様子を見た夫が「何かうれしいことでもあったのか」と尋ねるのでは私はやむをえず、「肛門が死ぬほど痛い」と打ち明けた。
夫は非常に驚いていた。まさか妻がぢの疑いがあるとは予想もしなかったという顔つきで「それは早く何とかした方がいい」と、うつむき加減につぶやいた。
夫の情報によれば、ぢにはドクダミの葉が効くという。知人がぢになった時、ドクダミの葉を揉んで肛門に詰めたところ、ウソのように治ったというのだ。
(略)
ドクダミの汁は肛門にしみ、私は三回位「ヒィィ」と声をあげて腰を浮かした。しかしこれで治ると思えば安いものだ。私は痛みをこらえてドクダミ三枚分を尻に詰め、何事もなっかたような顔をしてトイレから出、眠りについた。
よく朝、痛みはほとんどおさまっていた。驚くべき効果である。
なんと役に立つ草が、この地球上には存在しているんだろう。もうどんなに辛い物を食べても、太い便が出てもこわくない。ドクダミさえあれば肛門世界はパラダイスだ。
集英社「さるのこしかけ」(さくらももこ著)から引用。 |