(略)
伊達は黙って笑いながら僕のお喋(しやべ)りを聴いていたが、「でも痔の手術は・・・・・・わたしには覚えがあるが恐ろしく痛いものだ」とだけ洩(も)らした。だから僕には、「その痛さが値打ちでないのかね」とも、「自分にはどんな痔の経験もないが、そこがつまり痔の記憶の所以(ゆえん)である」とも、余計なことに口を出す必要がなかった。神戸新聞の青木繁は単行本「青春と冒険」の中で、僕が痔のために兵隊に行かなかったと書いている。飛んでもない!僕はれっきとした輜重兵(しちようへい)であった。「痔の記憶」はしかしよく了解されたことであろう。
(略)
A LITTLE FLOWER−BOY
極端に寸の詰まった
ほとんど桃をかくすか隠さないかの
銀色の畝織(うねおり)のショーツをはいた男の子が
花束を積んだ驢馬(ろば)を曳(ひ)いてきて
尾張町のかどで大繁昌
近ごろ姿を見せないので尋ねてみたら
坊やは痔で入院中だとさ
一部原文と表記が異なる部分があります。
「稲垣足穂全集[第十巻]男性における道徳」筑摩書房から引用 |