秋山自雲(しゅうざんじうん)は、東京、秋田、神奈川、福井、京都、大阪、兵庫、岡山など全国各地、特に関西で、主に日蓮宗のお寺に祀られています。痔の神様、仏様は多く存在しますが、この秋山自雲は、江戸時代からの流行神として有名でした。 江戸時代の随筆や地誌である「耳袋」、「武江年表」、「遊歴雑記」、「東都歳時記」、「江戸神仏願掛重宝記」、明治の「土俗談語」、「新編江戸名所図誌」にもこの痔の神である秋山自雲又は本性寺の記載があります。また、江戸川柳にも「痔の神」として登場します。 この秋山自雲は、もともとは、東京台東区清川にある千松山本性寺に由来します。この本性寺のパンフレットには次のように記載してあります。(秋山自雲については、「庶民信仰と本性寺」と「本性寺の歴史」の各章に記載があり、内容が一部重複する部分がありますが、それぞれの章から一部抜粋します。)
秋山自雲功雄霊神 略して「痔の神」「痔病神」ともいいます。 痔病平癒の霊験あらたかな神として、現在多くの人びとの信仰が寄せられています。 かつては、摂家・二条斉信(なりのぶ)(左大臣)や、諸侯(のちに華族となる)、幕末の剣豪・北辰一刀流の千葉周作なども厚い信仰を寄せていたといわれています。 「秋山自雲」というのは岡田孫右衛門という人の法号です。 孫右衛門は摂津国川辺郡(せっつのくにかわべこおり)小浜村(兵庫県)に生まれ、もとの名を善兵衛といいました。十四歳のとき、江戸霊厳島の酒問屋・岡田孫右衛門方に奉公をし、のちにこの養子となって孫右衛門と名を改めました。 三十八歳のとき、悪質な痔疾にかかり、いろいろ治療したのですが何の効果もなく、ついに髪をおろして本性寺の題目堂に籠(こも)り、懺悔滅罪(ざんげめつざい)の唱題修行に専念しました。 しかし、全治に至らず、四十五歳で示寂(じじゃく)しました。 孫右衛門は臨終に際して「自分の死後、痔疾に苦しむ人が一心に題目を唱(とな)えたらならば、必ずこれを守護し、平癒させると誓願をたて、これによって孫右衛門が本性寺に葬(ほうむ)られてから、古い友人の一人が痔疾を患(わずら)い、孫右衛門の誓願を思い出して祈念したところ、二か月ほどで快癒したといいます。
いらい人びとが孫右衛門の墓や題目堂に参詣して、痔疾平癒の祈願をするようになったといわれています。 そののち、故郷の小浜村本妙寺(兵庫県)と京都東漸寺に祀(まつ)られるようになり、痔の神として信仰されるようになりました。 (略) 最近の信者には女性も多く、年に一度だけ、授(さず)けられた「妙符」をのみ、毎日おこたらずに祈念し、満願のおり再発防止の祈りを籠(こ)めてお礼を奉納する仕来(しきた)りとなっています。 (以下、略) 「本性寺の歴史」 (略) 寛保(かんぽ)元年(一七四一)、岡田孫右衛門が痔疾に悩んだすえ、薙髪(ちはつ)して本性寺の題目堂に籠(こも)り、読経唱題(どきょうしょうだい)の日々を送りますが快癒(かいゆ)せず、仏師に己(おの)れの像を刻させ、「痔疾に悩む諸人、題目を信仰すればこれを救護す」と誓願し、延享元年(一七四四)九月二十一日遷化しました。法号を「秋山自雲(しゅうざんじうん)」と称して本性寺に葬し、その像を題目堂に安置しました。 のち親族知己の者が痔疾に罹り、題目堂に祈念したところたちまち快癒したことから、その霊験あらたかなことが諸国に広まり、いらい参詣人があとを絶たなかったと伝えられています。 (略) 天保(てんぽう)元年(一八三〇)、五摂家(ごせっけ)の一つ、従一位左大臣・二条斉信(なりのぶ)公が痔疾を患(わずら)い大夫(中宮職)を本性寺へつかわし、「秋山自雲霊神」に代拝させたところ、たちまちのうちに快癒したことから、斉信公もその霊験あらたかなことに驚き「功雄」と諡号(しごう)賜い、自ら扁額を霊前に奉納しました。 (以下、略)
( )は、ルビです。 上記「庶民信仰と本性寺」と「本性寺の歴史」は、千松山本性寺発行のパンフレットからすべて引用しています。 この本性寺については「痔を癒す神々 東京編」でも、ほぼ同じ内容ですが、紹介しています。 江戸時代の著名な随筆である「耳袋」をはじめ様々な文献に本性寺又は秋山自雲の記述があります。 例えば、寛政10年(1798)江戸町奉行に任ぜられた根岸鎮衛(ねぎしやすもり)が、城中や市井で見聞した興味ある事柄を10巻に纏めた「耳袋」(みみぶくろ)の巻の四には「秋山自雲」の記載があります。 ■1 ※痔(じ)の神と人の信仰可笑(わらうべき)こと(巻之四) 「今戸穢多町の後ろに、痔の神迚(とて)石牌(碑)を尊崇して香花など備へ、祈るに随ひて利益平癒を得て、今は聊(いささか)の堂など建て参詣する者有り。(以下略)」 岩波文庫「耳嚢」長谷川強校注から引用 この「耳嚢」の詳細については、随筆・紀行「耳袋」(江戸時代)を参照してください。 |
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